命へ導く言葉

使徒言行録27章27~38節

澤田 武師

主題聖句 「だから、どうぞ何か食べてください。生き延びるために必要だからです。
        あなたがたの頭から髪の毛一本もなくなること はありません。」    27章34節

 パウロのローマへの船旅は、最初から“風に翻弄される”船旅になりました。今、船は“エウラキロン”と呼ばれる暴風雨の中で、ただ漂流するのに任 せるだけです。風は時として「追い風」にも、また「向かい風」にもなります。物事を加速させることも、また絶望の中に留まらせる力にもなります。今 にも座礁、難破する不安と死への恐怖だけが、この船には満ちています。
 パウロはこの命の危機の中で、神様の声を聞きます。神様から託されたローマへの船旅であるからには、絶望にある者の命を守り、神様が全てを供えてく ださっている旅であることを語ります。
 そして船員たちは、夜の闇の中で、経験から陸地が近いと感じました。実際 に測ると水深は37メートルしかありません。確実に陸地は近くにあります。それは、命が助かるという希望が与えられたということです。
 しかし、新たな不安も生まれます。浅瀬に座礁する恐れもあるということです。パウロは陸地が近いことを知り、神様の約束が成ると確信しました。そして、今まで食事をすることも忘れていた者たちへ、上陸までの体力を保つために、食事を取ることを勧めます。この食事は、神様がパウロに託された一人一人の命を養うことになります。皆が一つになって食事をする。パウロが命へと導いた言葉は、今ここで、だれ一人残さず命を与える食卓に招かれた者たちに成就しました。
 パウロが準備したこの食卓は、これまでパウロが語ってきた神様の約束が確かであり、間もなく成し遂げられることを具体的に表した出来事です。暴風雨の中、何も希望がない中、先に喜びと感謝の食事をいただける。この食事は、皆を元気づけ、今まで一番望んできた希望となりました。
 私たちは神様が行われる御業を、到底全て理解するとはできません。しかし、神様の御言葉を土台として「何か食べてください」と言えるのです。確かな神様の約束として「元気を出しなさい」と励まし、救いを宣言できるのです。